個展に本人が来た。聞き覚えのある声だなあと顔を上げるとまさかの本人。一目見たときはただの来場者だと思ったから、声がなかったら絶対に彼女だと気付かなかっただろう。人の顔に対する認識の雑さを改めて感じる。そもそも私は彼女のことをどう思っているのかよくわからない。手放しに好きとはいいがたく、見ていてむずがゆくなるような、目を逸らしたくなるような、なんとも表しがたい淀みを抱えたまま、よくわからないと思いながら、なぜだかぼんやりと追いかけてしまう。今日も、静かな緊張感とざわめきのひろがる狭い会場で遠巻きに彼女を追いかけていた。来場者に話し掛ける彼女の声には僅かに力がこもっていて、人見知り故に意を決して声を発するようなところがあるのだろうと想像する。さらさらの髪が光を浴びて毛先がブラウンに透ける。私も髪を染めようかなあと思ったりする。